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Lee-Byung-hun addicted

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しゃちほこ  2

しゃちほこ その2


「・・・・・・・・ごめん」

揺は神妙な面持ちで彼の横に座り彼の顔を覗き込んでいた。

黙々と差し入れのおでんをほおばる彼。

ちょっと離れたところで振り付け担当のダンサーやスタッフたちがおでん鍋を囲んで談笑している。

「お前・・・・笑ったろ」

ビョンホンは不機嫌そうにつぶやく。

「笑ってないよ。ただ・・・」

「ただ・・・・何?」

「ただ・・・可笑しかった。」

そういうと揺はこらえきれずに噴出した。

「ひどい・・人が一生懸命にやってるのに・・ありえない」

彼はそういうとまた一本おでんに手を伸ばす。

一体何本食べる気なのか・・・。

もう彼の前の紙コップには大量の竹串が刺さっている。

「いいの?そんなに食べて・・」

心配そうに尋ねる揺を横目でじっと睨む彼。

「やけ食い。揺がいじめるから」

「だから・・・ごめんって。悪気はないのよ。一生懸命なのもわかってる。

かっこよかったよ。でも・・・もうちょっと自然なほうが・・・」

「お前、踊れるのかよ。そんな簡単に言うけどすっごい難しいんだからな」

「私は踊るの仕事じゃないもの・・。」

「俺だって仕事じゃない・・でもやらないといけないんだ。決めたから。」

「・・・・・・・・ごめん。」

揺は彼の心中を察した。

イベントで何をやるのか詳しいことは何も聞いていない。

いろいろ練習が必要だということだけしか聞いていなかった。

このダンスもそのひとつなのだろう・・・。

「きっとね。あなたは勘がいいから練習したら上手に踊れると思うよ。それにさっきのぎこちないあなたも最高に可愛かった。」

揺はそういうと床に無造作についていた彼の片方の手に自分の手を乗せた。

ビョンホンが揺の方をちらっと見る。

「本当にそう思う?」

「もちろん。」

「じゃ、練習するか。」

彼は小さなため息をついた後にっこり笑ってそういうとすくっと立ち上がった。

「頑張って。終わるまで待ってる。今日はスペシャルマッサージしてあげるからね。」

「うん。」

彼は嬉しそうに頷いて微笑んだ。

そして大きな声で一言。

「さあ、休憩終わり。頑張って練習します」




さっきから何度この曲を聴いているんだろう・・・・。

生贄たちのフレーズが頭の中でこだまする。

目の前にはタオルを鉢巻にして必死に練習する彼の姿。

「はぁ・・・・・面白すぎる」

最初は彼に気づかれないように笑うのが辛かった。

でも見ているうちに次第に胸が痛くなってくる。

テンポにうまく乗れず何回も同じフレーズを繰り返し踊る彼。

撮影で疲れきっているのに何故こんなに頑張れるのだろう。

練習が終わる頃には揺はもう胸がいっぱいで笑うことなんて思いもよらなかった。

涙をこらえるのに必死だった。

「もういいよ・・・やめようよ。頑張らなくていいよ。」

終わったらそう声をかけよう。

くたくたになって汗だくで踊る彼を見ながら揺はそう決意した。




夜12時

やっとレッスンが終わる。

「お疲れ様~。また明日」

スタッフが引き上げていく。

彼は床に腰を下ろしストレッチをしたあと大の字になって動かない。

「ビョンホンさん、車回してきますから下で待っててください。」

マネージャーが声をかけ

「おお」彼は寝たまま返事をした。

広いフロアーに沈黙が流れる。

そんな彼の姿を揺は部屋の端から黙って見つめていた。

「揺・・・いるか?」

彼が天井を眺めたまま呼びかける。

「うん。いるよ。」

「どうだった。少しは上手くなったか。」

「・・・・・・」

「おい。答えられないってことはまだ相当下手ってことか?」

彼が上半身だけ起こし揺の方を見て不満そうに言った。

「そんなわけないじゃない」

揺は彼に駆け寄りフロアーを滑りながら彼に抱きついた。

「感動しすぎて言葉が出ないのよ。そんなにすっきりした顔で笑って。本当にバカなんだから・・・」

泣きじゃくりながらそういうと揺は彼をぎゅっと抱きしめた。

辛かったらやめていいから・・

そんなに頑張らなくていいから・・

泣きながら心の中で叫んだ声は声にならない。

「・・・・・くっ苦しいよ・・運動して息上がってるんだから。今は無理だ」

彼はにっこり笑うと揺のおでこにやさしくキスをした。

そして彼女の涙を指で拭う。

「大丈夫。お前が驚くほど上手くなってやる。」

にこやかに彼は言った。

揺はちょっと困った顔で彼を見つめた。




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